大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(ネ)153号 判決

控訴人

榊原正哉 外一名

被控訴人

中力農

主文

原判決を取り消す。被控訴人は控訴人らに対し各金二万二千五百円ならびにこれに対する昭和二十八年二月二十八日から支払の済むまで年五分の割合による金員を支払うこと。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

(省略)

理由

岡山県久米郡久米南町京尾九百四十八番の十五山林九反七畝十歩(公簿上)が控訴人らの共有に属し、その西側に隣接する同所同番の十四山林二反四畝二十歩が訴外光延孝の所有に属すること、ならびに、同訴外人が所有する右山林の西側に隣接する同所同番の十三山林二反四畝二十歩が被控訴人の妻智恵子の所有名義であつたことは当事者間に争がない。

控訴人らは被控訴人が控訴人らの右共有林内に生立する松立木等を無断で伐採したと主張するので、案ずるに、嘱託証人東亨、原審証人光延孝、当審証人榊原進の各証言、原審における控訴人榊原正哉、当審における控訴人政近武夫、被控訴人、各本人の供述、検証および鑑定の各結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。

前示九百四十八番の十三の山林はもと被控訴人の叔父政近彦太の所有であつたのを、その財産整理の際被控訴人ほか二名に提供し、この三名の協議により更に被控訴人の単独所有となり、公簿上被控訴人の妻智恵子の所有名義にしたものである。被控訴人は昭和二十五年三月頃この山林に生立する松立木約五十石を金一万五千円で訴外東亨に売却した。被控訴人は右政近彦太から少くとも右九百四十八番の十三の山林とその東側に隣接する、光延孝所有の前示同番の十四の山林との境界を教えてもらつて知つていた。ところが、被控訴人は訴外東亨を現地に連れて行き、同人に売り渡した山林の範囲を指示したが、その指示は正確ではなかつた。右訴外人はその指示に従い同年九月頃までの間に伐採搬出したが、その範囲は前示九百四十八番の十三の山林の範囲を越え、同番の十四の山林に及び、しかも、更にそれを越えてその東側に隣接する、控訴人ら共有の前示同番の十五の山林に食い込んだ。そして訴外人が右共有の山林で伐採搬出したのは松立木約五百二十九本、約百四十五石と雑木としてねず立木約五十五本、約五石を含む約五十六石に達する。

被控訴人は、訴外東亨に対し売却山林とその隣接山林との正しい境界を指示したのに、訴外人が勝手にその指示に従わないで控訴人らの共有山林に伐り込んで行つたのであつて、被控訴人のしたことではない、と主張する。しかし、この主張に副う、原審および当審証人池田晴光の証言と当審における被控訴人本人の供述は嘱託証人東亨、原審証人佐藤瓢二、当審証人榊原進の各証言と対比し措信し難く、他に右主張を認め得る資料はない。

他に前示認定を左右する資料はない。

この様な次第で、前示認定によると、被控訴人は過失により訴外東亨をして控訴人らの共有にかゝる山林の立木を無断で伐採させたものと認められる。

従つて被控訴人は控訴人らに対し右伐採に因り被らしめた損害を賠償する責任があることは言うをまたないところであつて、控訴人らはその賠償として右伐採にかゝる立木の価格の支払を求めるので、この点につき審按する。

鑑定の結果によると、前示松立木約百四十五石と雑木約五十六石の伐採時たる昭和二十五年九月現在における価格は、前者につき四万六千九百八十円、後者につき一万一千九百五十円、合計五万八千九百三十円であり、本件口頭弁論終結当時における価格は、前者につき十一万二千六百六十五円、後者につき一万五千五十六円、合計十二万七千七百二十一円であることが認められる。即ち、目的物の価格は不法行為当時より高くなつている。かような場合には、控訴人らが、右不法伐採がなかつたならば、転売その他の方法により高い価格に相当する利益を確実に取得し得たような特別の事情が存し、しかも、被控訴人において伐採当時この様な事情を予見し又は予見し得たであろう場合に限り、控訴人らは右の高い価格に相当する損害の賠償を請求することを得るものと解するのを相当とする。ところが、すべての証拠によるも、控訴人らに右特別の事情の存したことを認め得ない。それ故、控訴人らは右の高い価格の賠償を求め得ないのであつて、単に伐採当時の価格たる前示五万八千九百三十円の賠償を求め得るに過ぎない。控訴人らはその共有持分が各二分の一であるとして、賠償額の二分の一ずつの支払を求めているから、本来各金二万九千四百六十五円の支払を求めることができるのである。控訴人らは本訴では各右金額の範囲内である二万二千五百円とこれに対する不法伐採の後である昭和二十八年二月二十八日から支払の済むまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているから、その請求は正当であつて、これを認容すべきである。

右と異る原判決は失当であり、取消を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋英明 高橋雄一 菅納新太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例